東京高等裁判所 昭和39年(ラ)8号 決定 1964年4月08日
抗告人 野田成年 外一名
主文
一、本件抗告を棄却する。
二、抗告費用は抗告人等の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨及びその理由は末尾添付の別紙の通りである。
しかしながら、当事者費用中期日に出頭するために要する費用は、訴訟代理人である弁護士が当事者本人に代つて出頭しても、当事者本人の出頭に要する費用の限度においてのみ訴訟費用になるものと解すべく、民事訴訟費用法第一三条によると、当事者の旅費は鉄道に在りては汽車賃で裁判所の相当と認むるものによる旨定められているところ、本件につき原裁判所が、抗告人らの訴訟代理人において期日に出頭するため、その住所地たる静岡市より第二審裁判所所在地である東京に往復するに要した旅費(現実にいかなる旅費を支出したかについてはその疏明はない)として、抗告人らの支出すべき旅費額の範囲内で、二等の汽車賃及び急行料によるのを相当と認め、これを訴訟費用額に計上したことは、何らの違法もなく、またこれをもつて原決定を取消さねばならない程の不当ということもできない。訴訟代理人が社会的地位の高い弁護士であるからとか、訴訟代理人を選任した当事者が二名であるからとかいう理由で一等の汽車賃及び急行料によつて訴訟費用額を定めなければならないとなすべき法律上の根拠がない。
従つて、本件抗告は理由がないものとして棄却すべく、主文のとおり決定する。
(裁判官 菊池庚子三 川添利起 花渕精一)
別紙
抗告の趣旨
一、原決定を取消し更に相当の裁判を求める。
抗告の理由
一、原決定は付属計算書において抗告人代理人が東京高等裁判所へ口頭弁論に出頭した旅費額を二等往復汽車賃(急行料金を含む)として算定決定せられましたが一等汽車賃並に急行料を計上すべきものでその範囲において増額せらるべきを相当と思料する。
二、右理由は官公吏又は世間一般の旅費支給の諸規定等の実情によると二級官以上又は相当の地位の者には総て一等汽車賃急行料が支給されているところである。
弁護士が訴訟の為めに出頭する場合、実際弁論に要する時間は短きは二、三分長きは一日に及ぶことあり区々であるが法廷の実際においては二、三分で終る事件においても相手方の出頭状況又は裁判所の他事件の関係において半日を待機することも往々にしてある。静岡東京間を往返するには汽車に乗つている時間だけでも六時間程も要する。これに列車時刻の関係、事務所から駅、更らに裁判所迄の交通を考えるともともと即日で要務を果したものとしての旅費のみを計算することがそもそも実情に合わない程である。裁判所の職員の場合でも実例は一等旅費に加えて一泊の宿泊料を支給されるか時間外給与を支給されている実情と思う。
三、本件については僅か三回の旅費に関するから大した額とも思われないがその趣意が何とも納得し兼ねるから敢えて抗告に及ぶ次第である。
抗告理由追完書
一、民事訴訟費用法の正解が何れであるかは正に御庁の明鑑と仰ぎたいところであるが、
(一) 訴訟費用は「権利の伸張又は防禦に必要なる」ものを認むべきことは同法第一条に明記される。
(二) 弁護士を訴訟代理人として訴訟を追行することは通常右の範囲内の行為として容認さるべきであるが、その報酬は別の理由によつて、訴訟費用として認めないところである。
(三) なる程法第十三条には当事者とあるがこの点から直ちに訴訟代理人の出頭旅費を認むべからずと断定することは不可なることは勿論であつて、原決定も現に訴訟代理人の旅費を当事者に代るものとして認めて居られるところである。そこで「本人の出頭に要するその限度においてのみ」と限定することが果して妥当かどうかは「権利の伸張、防禦」と云う点から考えて見る必要がある。本件は相当複雑な事案であつて野菜の行為をしている老母や和裁とれい細な雑貨商を営んでいる未亡人ら本人の訴訟追行は困難なこと云う迄もない。弁護士を委任することが必要不可欠な事件である。そうとすれば訴訟代理人の旅費を「本人の出頭に要するそれの限度においてのみ」と制約しなければならぬことはないと思う単なる形式論を固守するのならばむしろ訴訟代理人の旅費の規定がないから全然駄目だという結論になるべきではないか。
(四) 法第十三条によると「二等以下の汽車賃」とあるけれども、これは国鉄が一、二、三等に別れていた頃のまゝの規定である。
「二等以下」という用語は三等か四等があつて始めて用いられ通用する文言である。国鉄の三等が廃止されて、一、二等のみになつたのは三、四年前であるが法の最終改正は臨時措置法においても漏れている。従てその解釈運用はこの社会制度の変遷を考慰にいれて為さるべきであると思う。現在の二等は法制定当事の三等に該るのである。
(五) 抗告人二名の身上は将に原裁判官の意見書の通りであることは争わないがそれにしても両名に対して二等旅費を認める場合は結果的には訴訟代理人一人の一等旅費を認めるよりは多額になることは明白である。「その限度」においてと制約しても決して超過していない。相手方に利益にこそなれ決して不利益にならない。
(六) 従来の裁判例によると数人の訴訟代理人のある場合一人のみの旅費を認めたり、本人が訴訟代理人と共に出頭した場合でも本人のそれのみは認めないとしたものが存するが本件の如く本人二人の旅費より一人の訴訟代理人のそれが低額であるケースが問題となつたことはない。解釈上の重要問題と思うので敢えて所見を述べる次第である。